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芸術座の想い出 そして『放浪記』 [雑感]

  私が東宝演劇部に入った当時、芸術座の隣にはまだ映画館の有楽座と日比谷映画が建っていた。そのころ芸術座の楽屋は有楽座部分に張り出す様にしてあった。スタッフルームの窓からは、道を挟んで旧東京宝塚劇場が見えていた。
  有楽座と日比谷映画を再開発して今のシャンテができた。このときに芸術座の楽屋は東宝本社ビルの中、芸術座の客席の上階に引っ越し、それが現在の姿である。

  私は既に20年を超えて東宝演劇部に在籍しているにも係わらず、その間に担当した芸術座の公演はわずか1本であった。森光子さんの『恋風』がその作品で、私は演出部の1人だったのだが、その公演でも初日が開くとすぐに、私は別の作品の準備のために現場を離れてしまった。
  私の芸術座の数少ない想い出は、東宝に入って半年の間に見習いとして3劇場を回った、その時のものである。見習いの最初の二ヶ月を私は東京宝塚劇場で過ごし、続く二ヶ月は帝劇で、最後の二ヶ月が芸術座であった。
  芸術座での一月目が山田五十鈴さんの『香華』、二月目は石井ふく子さんの『大家族』で、二ヶ月の間に私は、道具を担いだりスポットライトをいじらせて貰ったり、演出部の先輩たちの仕事ぶりを盗んだり、そんなことをして過ごした。

  『放浪記』は15年ぶりに見た。オープニングの音楽が流れ緞帳が上がり、無人の舞台に対して拍手が沸き起こった瞬間に、私は不覚にも目頭が熱くなった。
  休憩中
はロビーを歩き、そして終演後は舞台裏を歩いた。人それぞれに、その人だけの芸術座の想い出があるだろう。私には私の想い出がある。その想い出を風化させないために、私は歩いた。

  私たちの業界では、その日最初に出会った時の挨拶は「おはようございます」である。そしてさよなら代わりには「お疲れ様でした」と言う。何時に会っても、夜でも「おはよう」だし、そんなに疲れていなくても「お疲れ様」である。
  それともう一つ、初日と千秋楽には「おめでとうございます」。これが挨拶に関する私たちの慣わしなのである。

  そんなわけで、今月限りで閉館、再開発される芸術座にも「お疲れ様でした」。そして、「おめでとうございます」。

  新劇場のオープンは2007年の11月と告知されている。


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