SSブログ

『笑の大学』のこと [雑感]

  『笑の大学』のDVDが発売になった。『笑の大学』は1996年の10月に青山円形劇場で初演された、三谷幸喜/作の2人芝居である。
 2人の登場人物は警視庁保安課の検閲係・向坂睦夫と浅草の軽演劇劇団『笑の大学』の座付作者・椿一で、西村雅彦と近藤芳正がそれぞれを演じた。
   舞台は昭和15年秋の東京で、
ストーリーはDVDをご覧頂けばよいのだが、脚本の事前検閲などを定めた「映画法」が前年の4月に公布されている。そんな時代の物語である。

  『笑の大学』の初演当時、私はまだ駆け出しもいいところの演出家で、前年にPARCO劇場の『君となら』でメジャー演出家としてデビューしたばかりであった。(このブログのカテゴリー「プロフィール」の中にある「演出作品リスト」を参照のこと)

  そして『笑の大学』は、三谷幸喜の新作連続上演企画の2本目であった。1本目はPARCO劇場での『巌流島』で(この演出も私)、それが開いたひと月後に『笑の大学』は青山円形劇場で開幕する手筈となっていた。
  ところが、1本目の『巌流島』が台本の遅れから初日を延ばす羽目になり、そのしわ寄せが『笑の大学』に来てしまった。台本の完成が遅れた上に、実質10日程度の稽古期間しか取れなくなってしまったのである。

  『笑の大学』には、舞台版の以前にラジオドラマ版が存在した。ラジオドラマ版では三宅裕司さんが向坂を、板東八十助さんが椿を演じたのだが、私を始め舞台版のスタッフは、このラジオ版の脚本を手がかりに、美術や音楽などを準備したのである。
  しかし俳優たちは私たちの様にする訳にはいかない。ラジオ版の台詞を憶えたって何の役にも立たない。

  2人芝居は、3人以上が登場する芝居と比べると俳優の負担がとても大きい。会話を交わし続けなければいけない、と言う点では、1人芝居より難易度も高いかも知れない。
  私たちにも「初日を延ばす」という選択肢はあったのだが、西村も近藤も、そんな素振りは微塵も見せなかった。2人はただ黙々と台詞を憶え、稽古を重ねた。初日は延びなかった。

  私はこの芝居を「バック・ステージ物」として演出した。もう少し分かり易く言えば、「観客を楽しませる事の喜びを知ってしまった人たち」へのオマージュとして演出したつもりである。
  その枠組みが図らずも、青山円形劇場の観客と西村・近藤の姿とだぶって見えた。西村・近藤は観客を大いに楽しませたし、西村も近藤も、そうせずにはいられなかったのである。あの重圧の中にも係わらず。

  『笑の大学』は、西村と近藤へのオマージュとなったのであった。


nice!(0)  コメント(7)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 0

コメント 7

橋本二十四

あの『笑いの巌流島大学』から、もう10年を数えようとしているんですね。
他人事半分、身内の心配半分で、様々な事を見聞していたあの頃が懐かしいですね・・・ご無沙汰してます。二十四です。
奥さんに『山田さんが「笑いの大学」の事、書いてるわよ。』と言われ、
閲覧ついでに書き込みました。ちなみに、彼女が私の数ある蔵VTR(?)の
中から見たのは『笑いの大学』と『LikeMothr,LikeDaughter』だけです。

で・・・近藤氏、西村氏へのオマージュになった肝心の映画の方の感想は、いかがなんでしょう?
私は、エンディングロールの中に、スペシャルサンクスとして山田和也氏の名前が無いのに物足りなさというか、物語の時代的に言うと不敬さを感じましたが・・・これ以上は、ちょっと辛口になりそうなので・・・さて、SWの先行オールナイトはどこにしましょうか?(笑い)
by 橋本二十四 (2005-06-11 17:38) 

西本由香

先生が以前、「心意気が見える作品」という言い方をしていたことがあったかと思いますが、『笑の大学』もまさにそういった作品でしたね。
そうせずにはいられない人達、自分は客席から、確かに舞台上と舞台裏にその心意気を見ました。
ちなみに好きな箇所は(大して聞きたくないとは思いますがどうか言わせてください)

椿「一晩考えれば~今までだってそうだったんだ」ってのと、
向坂「貫一もお宮も~、やる!」てところですね。
あと本当にラストのラスト、音楽と照明が消えていく瞬間です。

あと「お肉…」も、と言い出したら次々出てきそうなので、ここらでやめときます。ついついコメントせずにはいられませんでした。おじゃましました。
by 西本由香 (2005-06-11 21:32) 

山田和也

橋本さん、コメントありがとうございました。新居は如何ですか。奥様にもくれぐれもよろしく。

さて、映画と舞台は「別物」ですから、私は映画版の評価をする立場にはありません。が、個人的な感想としてならば「なぜ検閲官の視点で撮ってしまったんだろう?」と言う疑問は湧きました。

SWの先行オールナイトで一番想い出に残っているのは『エピソードⅥ』ですね。座席が無くて通路に座って観た、有楽座のです。
その有楽座の跡地にできた「日比谷シャンテ」の入っているビルに、この春から私の会社(東宝)は入居しているのですが。と言うか、そもそもビルの持ち主なのですが。

しかし旧3部作から入った者としては、どうなんでしょう、新3部作は。『エピソードⅠ』なんて、早くスペシャル・エディションを作って、あそこやあそこやあそこやあそこを差し替えた方が良いのでは?(怒)(または泣)
by 山田和也 (2005-06-12 06:54) 

山田和也

西本さん、コメントありがとうございました。

私は時間が取れなくて、まだDVDを観ていません。観ればまた色々な事が蘇って来るのでしょうが。
by 山田和也 (2005-06-12 06:59) 

西本由香

お返事ありがとうございました。DVD時間を見つけて是非観てください。しみじみいい作品ですから。こちらから言うのも妙な話ですが。
初演と再演(収録した日にもよるのかもしれませんが)やはり雰囲気がやや変わってる様に思います。細かいところも。あぁ再々演が観たい。
(SWってスターウォ-ズの事だったのか、わからなかった…SWに関するコメントは完全にいちファンですね。微笑ましい限りです。)
by 西本由香 (2005-06-12 09:46) 

橋本二十四

山田和也卿、想い出を訂正して、申し訳ありませんが
『エピソードⅥ』を通路で観たのは、新宿プラザですよ。
画面を横の方から観たので、マスクを取ったダース・ベイダーの頭が
コーンヘッズのように見えて興ざめだったのに
その翌朝、当時、私が入会していたSWファンクラブの早朝試写会では
ちゃんとしてた、記憶があります。
その早朝試写会の場所が有楽座です。
確か試写前に、故・手塚治虫氏の挨拶がありました。
お忘れでしょうか?・・・そして、山田卿!SWに関して、あまり怒ったり、
泣いたり、という感情に流されると・・・ダークサイドに引き込まれ・・・
貴乃花親方になっちゃいますよ!ご用心!
by 橋本二十四 (2005-06-13 23:09) 

山田和也

そうでしたそうでした。
封切り前の有楽座での試写会のチケットがせっかく入手できたのに、その前夜に先行オールナイトが開催される事が後から決まって、大いに憤慨したのでした。
それに新宿のオールナイトからハシゴしたので、有楽座ではとても眠かったのを憶えています。
今では当たり前になった「先行オールナイト」のハシリがあの頃だったんでしょうねえ。(なんだかんだ言ってもⅠ、Ⅱ、Ⅳ、Ⅴ、ⅥとDVDを持っている私)
by 山田和也 (2005-06-14 00:12) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。